昔の俳人から

その昔、松尾芭蕉という俳人は、足三里に灸を据えながら旅を続けたと伝えられています。
長い道のりを歩き続けるために、体を整え、次の一歩を踏み出すための手段として灸を使っていた。
ここに、鍼灸の本来の使い方の一つが現れています。

鍼灸は「病気を治すための手段」としてだけ存在しているものではありません。
柔道整復のように、外傷を処置し、治癒を前提に受けるものとも少し性質が違います。
また、薬のように「これを使えばこうなる」と結果を直接コントロールするものでもありません。

人にはそれぞれ、達成したい目的があります。
仕事でも、生活でも、挑戦でもいい。
しかし、その途中で体は必ず限界にぶつかります。
疲れる。動かない。続かない。
そこで止まる人もいれば、無理をして壊れる人もいます。

病気や痛みは、突然降ってきたものではなく、止まる人の延長にあります。

鍼灸の役割は、そこを押し切ることではありません。
体の状態を整え、無理なく動ける状態に戻し、
「もう一歩いける状態」をつくることです。

また歩ける身体に戻していくことです。
つまり、結果を作るのではなく、
結果に向かうための“通り”を整える。

芭蕉が灸を据えながら旅を続けたように、
鍼灸は「何かを成し遂げる人の横で機能するもの」です。
主役ではないが、確実に支える。
前に進むための条件を整える。

だからこそ、鍼灸を「何でも治すもの」として扱ってしまうと、本質を見失います。
鍼灸は万能ではありません。
しかし、正しく使えば、確実に人を前に進ませる力があります。

当院では、体の反応を見ながら施術を行い、
その人が無理なく次の一歩を踏み出せる状態を整えることを大切にしています。
その場しのぎでも、過剰な期待でもなく、
現実的に「動ける体」をつくる、「動ける体」に戻っていく施術です。

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